伊豆稲取に伝わる古いつるし飾り
雛のつるし飾りは、静岡県賀茂郡の小さな港町、稲取に伝わる風習です。テニスボール大の布製の人形を一本の糸にいくつも吊るしたつるし飾りは、子供の健康や良縁を祈願して作り、桃の節句に飾られます。そして成人や結婚などの人生の節目に、どんと焼きという年中行事で火にくべ燃やされ、その役目を終えます。子供が生まれた際に贈られた正絹の産着や、古い着物を用いて作るため、その素材の性質からも、つるし飾りのほとんどは物として後世には残りません。しかし作り方は親から子へと各家庭で伝承していくので、技法や様式は現在も変わらず存在しています。
這って歩く子をモデルにした這い子人形や、座布団や草履といった日用品、東伊豆の特産物である金目や野菜など、いろいろなモチーフが存在しますが、「足が丈夫に育つ様に」「風邪をひかないように」など、それぞれに子供の幸せを願う謂れがあります。厳格な仕来りがあるわけではないので、各家庭ごとに特色があり、その時代の流行や制作者のアイディアが気軽に反映されるため、その意匠は多種多様な広がりを見せます。

日本の伝統や芸術といえば、宮中から武家社会へ広がりを見せた茶道や生け花、能や禅寺など厳格なイメージが先行しがちですが、雛のつるし飾りのような庶民の風習に着目をすると、暮らしの中の日本人の観察眼、手先の器用さ丁寧さ、そして応用力やおおらかさを伺う事ができます。また、はじめから保存を目的としない物に手間を尽くすという精神には、日本独自の美のかたちがやどると言えるかもしれません。
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